仮想通貨取引でのレバレッジ利用増加、金融にリスクを及ぼすか
国際通貨基金(IMF)は1月に、暗号資産(仮想通貨)が従来型の市場とますます絡み合うようになっていると警告する報告書を発表した。IMFは報告書の中に「仮想通貨取引でのレバレッジの利用増加が、システム全体への影響の伝播の可能性を高めている」という懸念を表明した。当時は仮想通貨と株式の市場がゆっくりと、着実に下り坂を迎えたところだった。
つまり、2008年、不動産を裏付けとしていた金融資産が市場を凍り付かせ、金融危機を引き起こしたのと同じように、大規模な仮想通貨の暴落が、メインストリームの銀行や証券及び信用市場に影響を与えかもしれないということだ。IMFはとりわけ、「(仮想通貨の)広範な普及が、金融の安定性にリスクを及ぼす可能性がある」と警告した。
仮想通貨取引でのレバレッジの利用リスク
IMFの分析は、リスクを正しく突いたものとなっている。29日には、大規模仮想通貨ファンドのスリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital:略称3AC)が、究極的にはその証拠金主導の投資戦略によって債務不履行に陥り、清算されると報じられた。
このような、ハイリスクでレバレッジ主導の考え方は、仮想通貨業界全体で一般的であり、このテクノロジーの根本的な有用性についての不透明感と同じくらい、その不安定さをも引き起こしている。
しかし、実世界はこれまで、仮想通貨の伝播力を試すチャンスを提供してくれることはなかった。
むしろ、仮想通貨とその他の金融市場は、世界的なインフレと、アメリカでの金融引き締め政策を筆頭とする共通の外部要因によって、同時に引き下げられた。
仮想通貨の「伝播」
証券市場と消費者景気信頼感は、仮想通貨の市場価値とともに下落。新型コロナウイルスのパンデミック期間中に大幅な値上がりをした投機的テック株の多くはここ半年で、割合で言えば主要仮想通貨と同じくらい、あるいはそれ以上に値を下げた。
しかし、少し学術的な話になってしまうが、伝播の問題は大切だ。一般の人たちからの関心の波は、サイクルごとに高まっており、危機にさらされる資産は増えているからだ。
仮想通貨市場からの影響の伝播における、最大の未知の要因は、投機的で流動性やリスクの高い仮想通貨に、実体経済が直接さらされることかもしれない。そのことが、将来的な危機におけるまったく新しいマクロ経済のダイナミクスの前触れとなる可能性もある。より多くのリスクが、機関投資家から個人投資家へと移るからだ。
同時に、すべてのサイクルは、仮想通貨とメインストリームの金融をますます統合させているようにも見える。仮想通貨企業が銀行口座を開設するのにも苦労していたのは、それほど昔のことではないのだ。それが今では、仮想通貨業界に合わせたサービスを積極的に提供する銀行もあるほどだ。
そのような統合の高まりは、3ACのような破綻がある日、伝統的金融(TradFi)の企業にダメージを与える可能性を意味する。そのような兆候も実際に見られた。
TradFi企業ジャンプ・トレーディング(Jump Trading)は、仮想通貨部門を立ち上げたが、根本的な欠陥を抱えたプロトコル「テラ」を支援するなど、一連の間違った行動を起こすこととなった。今のところ、母体であるジャンプ・トレーディングに致命的なダメージは及んでいないようだが、この先の失敗の予告編に過ぎない可能性が高い。
仮想通貨の規模
しかし、「伝播」というのは、1つ、あるいはいくつかの大手ファンドや機関投資家の相互依存の話ではない。「伝播」とは、金融の世界全体に及ぶ、密接なカウンターパーティー関係の波のようなものだ。仮想通貨は間違いなく、そのような影響を及ぼせる規模に近づいている。
11月のピーク時には、あらゆる仮想通貨の額面価値の合計は約3兆ドル。それは、1年に23兆ドルというアメリカのGDPや、約83兆ドルという世界のGDPと比べれば、大したことはない。
しかし、金融の世界と比べれば、比較的大きなものに見えてくるはずだ。IMFによれば、11月のピーク時には、仮想通貨の合計時価総額は、アメリカの証券市場の価値の5%近くに匹敵していた。さらに、53兆ドルだったアメリカ市場の既発債の5%を超えていたのだ。
それは、深刻な金融危機を引き起こすのには十分な規模である。比較のために見てみると、2008年の金融危機前には、債務担保証券(CDO)の価値の合計は2000億ドルだったと報告されている。これは、2022年のドル価格でいくと、2730億ドルほどに当たる。CDOは高レバレッジ商品であるため、基盤となっていた不動産市場がぐらついた時には、信用市場のほぼ完全な破綻を引き起こすのに十分だったのだ。
仮想通貨スタートアップへの投資リスク
仮想通貨エコシステムには、ベンチャーキャピタル(VC)ファンドも含まれるが、規模の面でも、相互依存の点でも、より広範な経済と比べれば、実質的には取るに足らないものだ。
仮想通貨が前例のないほどの盛り上がりを見せた2021年、VCが仮想通貨スタートアップに投資したのは、わずか330億ドル。VCがテックやソフトウェアセクターに投資した2760億ドルと比較すれば、かなりの額だが、その投資が完全に失われたとしても、より広範な経済には特に影響を与えないこともあり得るのだ。
VCは、独特な形で広範な金融業界から絶縁されているため、なおさらだ。大半のVCファンドは、損失を被っても、経済行為を劇的に変えることなくそれを吸収できるような富裕な個人からしか資産を預らない。
同じように大切なのは、スタートアップへの資金提供意外に彼らが果たす役割は最小限だという点だ。一般的なVCファンドが破綻すれば、新興業界への資金供給ルートは断たれるが、経済全体から資金が枯渇する訳ではないのだ。
暗号資産に対するリスクの高いレバレッジ投資
スリー・アローズは、同時にいろいろな事業に手を出していたことがますます明らかになってきている。そのために、その破綻の影響が高まっているのだ。例えばビットコイン(BTC)に対して極めてリスクの高いレバレッジ投資をするなど、自己勘定取引をする企業として機能しつつ、スタートアップに投資するベンチャーファンドでもあったのだ。
最悪なのは、3ACが支援する一部のスタートアップの資金のカストディアンとしても機能しており、そのサービスを利用したポートフォリオ企業には、金銭的なインセンティブを提供していた可能性があるという。それ自体愚かなことだが、3ACはそのように管理していたスタートアップの資産を、取引のための担保として使っていた疑いもあるのだ。
そのようなやり方は、仮想通貨市場において、確かに影響を伝播させた。3ACが資産をカストディしていた多くのスタートアップによる、悲劇的なラグプル(資金の持ち逃げ)もその一例だ。さらに3ACは、ビットコイン、イーサ(ETH)、その他同の優良資産の一連の強制的な売却に向けて市場のお膳立てをし、個々の企業だけでなく、市場全体を脅かしている。
仮想通貨の伝播力を全面的にテストすることはできていないが、3ACの共同創業者スー・ズー(Su Zhu)氏とカイル・デイヴィス(Kyle Davies)氏は、その伝播力を強めるような行動がどんなものなのか、垣間見せてくれた。
対策はさまざまだが、少なくとも大規模な金融機関は、カウンターパーティーからはるかに高い透明性を期待するべきであり、同じ屋根の下であまりに多くのリスクを共有することについて、一段と慎重なアプローチを採用するべきだ。
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