仮想通貨の冬は到来か?米コインベースの従業員削減を巡る
大手暗号資産(仮想通貨)取引所のコインベースは2日、2週間前に行われた採用凍結を延期するだけではなく、既に決まった新規採用も取り消すと発表した。
各暗号資産取引所による一連の人事決定の中でも、今回のコインベースの決定は最も劇的なものだろう。米FRB(連邦準備制度理事会)がインフレ対策として利上げを実施、株式市場および仮想通貨市場が低迷を続けていることが今回の人員削減の原因だとみられる。
しかしこれは、テスラなどの投機的「グロース」株を襲っているのと同じく、より広範な周期的低調の一部に過ぎないのだろうか?それとも、より限定的な、仮想通貨固有の現象なのか?つまり、はるかに悲惨な何かの序章に過ぎないのか?仮想通貨の冬が始まろうとしているのだろうか?
コインベース、採用を取り消すと決定
既に募集中止というコインベースの決定は、悪質としか言いようがない。コインベースから採用通知を受け取った人々にとって、それは残酷だ。
予想通り、一般の人々の受け止めは冷たいものだ。従業員の扱いという点で、コインベースの無能さが、改めて露呈したのだ。同社は以前にも、買収したブロックチェーン分析企業の首脳陣が、人権侵害で知られる複数の政府にスパイウェアを販売したプロジェクトをかつて主導していたことが判明。他にも、政治的発言を禁止する方針を発表したことによって、60人もの従業員が退職した過去も持つのだ。
しかし、今回の内定取り消しは、長年にわたる従業員軽視の姿勢を裏付けるだけではない。戦略面での大失態を露呈してもいるのだ。これほど支出にきつく急ブレーキをかけるということは、半年以上仮想通貨市場が一貫して低調であったのに、コインベースでは誰一人として問題の兆しを見ていなかった、ということだ。
米FRBの利上げサイクルの重大さを、誰も把握していなかったのだろうか?内定取り消しとは、市況の明らかな変化に対する準備は揃えなかったことから生まれる冷や汗を伴うパニック反応だ。これは、FRBでは、事前に将来的なガイダンスを発表しているのにも関わらずである。
規制を受け仮想通貨市場の低迷
コインベースは再び失態に秀でて見せてはいるが、逆風に直面しているのは、コインベースだけではない。仮想通貨エコノミーの低迷に伴い、仮想通貨取引所は縮小を発表する最初の分野の一つとなっている。その一因は、その多くが上場企業であったり、規制を受けた企業であるからだ。
仮想通貨や株式投資サービスを提供し、パンデミック中に急成長を遂げたロビンフッドは、従業員を9%削減した。メキシコの暗号資産取引所Bitsoや中東の暗号資産取引所Rain Financialも、従業員の削減に踏み切った。
その中でも、ウィンクルボス兄弟が率いる取引所ジェミニ(Gemini)の従業員削減発表が、最も扇情的な形で表現されていただろう。10%の人員削減を発表する中でジェミニは、仮想通貨業界全体が「静止状態の時期に入る」として、迫り来る「仮想通貨の冬」にはっきりと警鐘を鳴らしたのだ。
しかし、仮想通貨の冬がやって来ているとしても、私たちはまだそれを目にしてはいない。仮想通貨取引所による解雇の人数はこれまでのところ、大したことはない数字だ。
「仮想通貨の冬」というのは、2019年、仮想通貨市場の暴落と業界の後退の際に流行った言葉だ。このときには、2018年の初めには8300億ドルあった仮想通貨の合計時価総額が、2018年12月には1000億ドルにまで激減した。その結果、割合の点で現状と比べれば、人員削減ははるかに深刻だった。
正式なデータはないが、前回の仮想通貨の冬と現状の違いは明らかとしている。2019年、トークンスワップサービスを提供するシェイプシフト(ShapeShift)は、一度に30%の従業員を削減。同じ年には、個人投資家に重点を置いた暗号資産取引所に比べて市場の動きにさらされにくい、仮想通貨相対取引(OTC)デスクの多くも、人員削減や閉鎖を余儀なくされた。
イーサリアムブロックチェーンのアプリケーションとインフラの開発を取り組んでいるコンセンシス(ConsenSys)の縮小は、とりわけ象徴的だった。2018年の12月には、従業員の13%を削減。そして支援していた「スポーク」と呼ばれるいくつかのスタートアップをスピンアウトし、結局さらに大幅な人員削減が行われた。2020年2月には、残りの従業員の14%をさらに削減したのだ。
業界全体におよぶ従業員の削減は主に、トークン市場がつまずき始めて1年後に行われた。ビットコイン(BTC)が2021年11月に史上最高値を更新し、現行の市場低迷が始まってから、約8カ月の今。まだ本格的な仮想通貨の冬には突入していないのは確実だ。仮想通貨の冬は、出番を待っているのかもしれない。
「仮想通貨の冬」を引き起こす要因
仮想通貨業界の外からの顧客がもたらす新規収益の減少と、ベンチャーキャピタル投資の減少、そして個人投資家による投機の減少の組み合わせは「仮想通貨の冬」を引き起こす要因だ。
これまでのサイクルと同様、「個人投資家による投機」が最初に減少していった。その大きな原因の一つは、テラネットワーク破綻という壊滅的な出来事だ。個人投資家の行動にとっては、マクロ経済的環境も鍵となる。最も重要な個人投資家市場であるアメリカでの失業率が、非常に低い3.6%のままという新しいデータが出るなど、好材料も間違いなく存在する。
金利は大きな逆風だ。金利が上がると、投機的投資から資金がなくなるが、米FRBは利上げを続けると表明。しかし、6月1日に発表されたビットメックス(BitMEX)創業者アーサー・ヘイエス(Arthur Hayes)氏による投稿では、資産市場での痛みがあまりにひどくなった場合には、FRBが早めに利上げを止める可能性もあるという、説得力のある主張が展開されていた。
同氏はさらに、過去のトレンドに基づいて、ビットコインが2万6000ドルを割ったのが、底値だったかもしれないと主張。しかし、価格に対するそのような楽観的な見解は、決して業界全体で共有されている訳ではない。さらに、FRBが利上げ方針を転換するかどうかによっても左右される。
ビットコインの価格サイクルの別の側面を引き合いに予測を導き出すアナリストたちもいる。過去のビットコイン最高値が次なるサイクルの底値だとしたら、ビットコインは2万ドル付近で底値を打つはずで、それには現状からさらに30%下落する必要がある。
より悲観的な見方では、2018年の高値からの85%安と同じ軌道をたどる可能性があると指摘。そうなると、ビットコインは1万2000ドルまで下落するのだ。
仮想通貨業界の好材料
しかし、2018年にはなかった要因も存在する。特に重要なのは、優れたアイディアを支えるたくさんのベンチャーキャピタルの資金だ。アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)が新しく設立した45億ドル規模のベンチャーファンドだけでも、多くの開発者の雇用を維持できるはずだ。
そして、NBA Top ShotのようなマスマーケットNFTブランドから、警察にブロックチェーン分析サービスを提供するチェイナリシス(Chainalysis)のような企業まで、業界の外から収益を生み出す部門が、仮想通貨エコノミー内にしっかりと存在している。
一部の人にとっては痛手となるが、仮想通貨の冬はしばしば必要なもので、究極的には善である。より厳しい環境は、規制当局からも業界参加者からもさらなる監視の目を引きつけ、より即座に実行できて、収益を生むプロジェクトに資金を集中させることに役立つと願っている。
さらに、実現性の低いプロジェクトから高いプロジェクトへと、人材の大規模な入れ替えも引き起こされる。例えば、テラでかつて仕事をしていた開発者たちが現在、他のプロジェクトに誘われているが、これは無益というよりも有害な行き詰まりプロジェクトから、そうではないプロジェクトへと、人材の価値が移動しているということだ。
このような動きは、高額な手数料への過剰な依存を考えると、長期的に有効なビジネスモデルを欠くと批判される、コインベースのような取引所にも当てはまる。
未来が見える水晶玉を持った人はいない。しかし、全体として見れば、現在の状況は良好ではないが、殺伐ともしていない。そして、2018年の繰り返しにはほど遠い。
仮想通貨は消えゆこうとしている訳でも、もう終わっている訳でもない。仮想通貨はより広範なエコノミーと連動して動く可能性が高い。低調な1、2年の後に、成長と普及が再開するだろう。
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